貴方と私で らんでぶぅ?


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当人たちには自覚もなかったらしいまま、
周囲に居合わせたJKらの関心や秋波を総浚いしたミステリアスな二人連れ。

 片やは白に近い白銀の髪を よく言って個性的なざんばら髪にし、
 肌も白いせいか、何色をまとっていても淡色な印象の、
 一見草食系、肩も背も薄く細っこい少年で。

染めたり脱色した髪なら随分とおしゃれだが、どうもそうではないらしく、
眉や睫毛も同じ色のようだし、
時々寝起き頭で現れては、連れのお兄さんに手櫛で構われていたりするところが
居合わせた少女らから大きにウケている。
年齢不詳な童顔で、ちょっとしたことですぐに陽だまりみたいに柔らかく笑い、
そこも連れの兄人さんから良く注意されていて。
されど所作動作は機敏だし、表情もメリハリがあって
やや不器用そうではあるがお行儀もすこぶるいい。
どこか欧米の人とのハーフなのかしら、
そうそう、だって瞳も宝石みたいな色ですものね、淡い紫で。
だけじゃあないのよ? 下半分は琥珀色なの。え?それホント?…と、
結構 隙も多いのか、至近からも覗き込まれてもいる模様。

 もう片やは、落ち着きぶりから年上らしいとされている青年で、
 冬でなくとも黒っぽい装いがお好みであるらしく、
 そこから“黒いお兄さん”と やや不穏な呼称を授かっており。

こちらも随分と痩躯な上、気管支が弱いのか口許へ手を添えてはよく咳をする。
昔から“目病み女と風邪ひき男”といって、
目が弱くて涙目の女性と仄かな咳をする男はモテるの伝から
そこがまた女心をくすぐるのかと思いきや、
よくよく聞いていると話しようや態度は結構尊大で、
それでも連れの少年へは “しょうがない奴だなぁ”と折れてやることも多く、
尖った態度がほのかにまろくなるのがイイらしい。
そういえば目鼻立ちも整っているけど
口許に添えた手とか、あと頬に添わせて伸ばした横鬢の髪が先だけ白いところとか、
特徴があるところに気が散って、
どんなお顔かとあらたまって問われると思い描けないのも不思議で。
ただ、虹彩まで真っ黒な、存外大きな双眸をしていて、
小さい頃は存外 女の子みたいだったかもしれない、というのが最近の定評であるらしい。

 …と、結構観察されてる彼ら

駅前の目立たぬ一角で落ち合うと、まずはちょっとした挨拶代わりのやり取りを交わし、
さほど長居はしないまま、どこか目的とするところへさっさと立ち去る軽快さもまた、
あああ行ってしまうと惜しむこちらへ
(当たり前ながら)目もくれぬつれなさがいいと、JKたちの噂になっているらしいが、

 実は実は、生半可な気持ちで近づけば
 比喩ではなくの大やけどをしかねないほど危険な二人でもあるのだ、お立合い



 「う〜〜、今日って何度くらいあるのかな。」

今日はまた、随分と気温も高く陽射しも目映い。
炒るような陽の強さは早くも夏のようだが、
それでもまだ空気は乾いているし木陰の涼しさは格別で。
街路樹の影が落ちる中を選んで歩みつつ、
本物の夏場だと こうはいかないよねなんて話に上らせれば、
蒸し暑さに毎年手酷く打ちのめされている芥川なぞ、
今からややうんざりと眉をしかめていたりする。

 「大丈夫か? 休み休み行こうか?」

忌々しそうに頭上へちらりと目をやったのを見咎めたか、
白の少年が案じるように連れを振り返る。
それへかぶりを振って見せ、

 「大事ない。
  ただ、このまま夏になるのではないかと思ってな。」

重ね着をするなりカイロを使うなり、
寒い方が堪えようがあると言う彼だが、そうかなぁと敦はそれは率直に小首を傾げた。
だって、途轍もなく寒くなっても、この黒の青年はさほど重装備をしないのを知っている。
あまりに重い外套だとそれだけで疲れるらしく、

 “体力つけるのは無理なのかなぁ。”

仕事の上でとなると敵対組織の人間ではあるが、それでも案じてしまうほど、
敦にはもはや “大切な人”のうちである。
仲間内である太宰が大事にしている存在だし、愛しいお人の仕事仲間で、
それ以上に当人同士でも ずんと気心が知れている間柄。
辛そうなのは見ていられない。間違っているなら放っておけない。
彼が最も大切だとする太宰が相手でも、辛い目を見せようというなら庇い立てすると思う。

 “…まあそれは滅多なことで起きないと思うけど。”

あ、でも、あの人、
ボクなんかでは思い及ばないくらい途轍もなく難しいことを企むし、
人のこと言えないくらい犠牲精神持ってるしなぁ。
そんなこんなから わざとらしく嫌われるように持ってって
自分にだけ非が集まるように仕向けかねないって、
中也さんも国木田さんも忌々しいって顔で言ってたなぁと。
あれれぇ?とちょっと考え込んでしまうところがご愛嬌。
そんな敦少年が視線を向けたままな黒の青年だが、

 “そういうところがある太宰さんだってことも、
  芥川はもうちゃんと判っているんだろうなぁ。”

組織から何も言わないで姿を消した師へ、
ある意味 裏切られたと それはそれは憎んでいたというが、
それでもその感情はすぐさま、太宰の傍らにいた新しい部下への憎悪に挿げ替えられた。
自分への当てつけのように 優秀だと讃じる敦を苦もなく倒せば、
貴方が放って行った弟子は貴方の手も借りぬままこんなに成長したんですよという
文句のない意趣返しになるからでもあろうが、
それだけでは収まらない憤怒のような感情もさんざん籠ってたと思うし、
その時にさんざん食らった、黒獣最強の顎は、
今や何か痛い目に遭った時の物差し代わりになっているほど。

 “そうなんだよなぁ。”

別にずるずると仲がいいというわけじゃあない。
平時は古くからの知己同士のように睦まじいのに、
お互い、即妙なまでの切り替えがちゃんと出来ているようで。
共闘するという約定のない任務でかち合えば、
結構本気の殺し合いに発展しかねぬ激突も呈す二人であり。

『だってこいつ、
 仕事でこちらを見つけると、いやんなるほど不吉な笑いかたしますもの。』

生半可な気分でいたら、気が付いたら死んでたってなりそうなほど
本気満開で羅生門突っ込んで来ますしと、
虎の少年がぶうたれまくるが、
それを言うなら、

 『貴様こそ、』

殺さなきゃあいいってものじゃあない、
羅生門の素材たる外套を虎の爪で派手に引き裂き
ちょっと待て、これはどういう辱めだという状態にされたことがあると
あの黒の青年が眉間に物凄いしわを寄せてぶうたれた一件もあったらしく。

 『仲が良すぎての喧嘩は大目に見るけど、
  それより、これはどういう辱めだという状態ってなに? 私それ聞いてない。』

 『あ…。/////////』
 『いやあの……。』

太宰さんが真っ黒オーラ出しそうです。口喧嘩もほどほどに。




to be continued.(18.06.02.〜)




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 *芥川くんのあの黒い外套。
  最初のは太宰さんのを頂いたという話ですが、今着てるのもそうなのかなぁ?
  今の彼の身長は4年前の師匠と一緒だそうだし、
  あそこまで細いならそれも有りだろか。
  でも4年もああいう着方して傷まないとも思えないんですが。
  血を吸いまくりでさぞかし臭かろうと思うに、
  貰った外套は記念に仕舞ってないですかね。そういう子じゃあないか、う〜ん?

  という訳で、ウチの芥川くんは
  アレは仕舞ってて新しいのを着ております、ということで。
  (桜日和 2 参照)
  なので当人も容赦ない使い方してますし、敦くんも遠慮なく切り裂き返しております。